田村泰次郎文庫目録に寄せて

田村泰次郎は明治44年三重県四日市市に生まれ、旧制富田中学を経て、早稲田大学を卒業後、文筆活動に入り、戦後『肉体の門』で一躍有名となる。ここまでが一般によく知られた彼に関する知識である。しかし、氏が大学在学中より、文学活動に入り、戦前は評論家としても活躍したことや、戦後、日本文芸家協会理事や日本ぺンクラブ副会長として近代日本文学発展のために多大の貢献をしたこと、美術に関する造詣も深く、日本美術評論家連盟の理事であったことや自ら絵筆を取ったことなどは知る人も少ないのではないだろうか。

この目録に収録された、九千点に及ぶ膨大な資料は、戦前においては母明世氏が、戦後においては、妻美好氏が営々と(散逸していたものに関しては購入するなどして)収集整理して来られたものであり、作家田村泰次郎を調べる上では勿論、昭和10〜20年代の文壇の様子が窺える貴重な資料であると思われる。これだけ大量かつ貴重な資料が戦災と数回の転居を経て現在まで保存されていたことは驚異的なことである。

この貴重な資料の存在に我々が気づき、所在の確認と調査のために当館の三谷義彦課長と高田短大の藤田明氏が田村美好夫人の許に伺ったのは平成5年6月のことであった。この時、美好夫人は「夫泰次郎に関する資料は段ボールに詰めて貸し倉庫に大切に保存してあります。もし三重県がまとめて保存して下さるのなら喜んで寄贈させていただきます。それは、『三重県に帰りたい、帰りたい。』と言っていた晩年の夫の遺志にもかなうことでしょう。」とおっしゃられて御寄贈をお約束くださったのであった。その後7月には私も加わり三人で上京し、御寄贈の内容と方法を確認させていただいた上、改めてお礼を申し上げ、平成5年10月12日、田村泰次郎コレクションは三重県立図書館へ寄贈されたのであった。

あれから半年、153個の段ボールを一つ一つ開封し、資料別に整理し、目録原稿を作成してゆくという地道な作業と年譜の作成は三谷課長に専ら担当していただいた。 彼の精緻な仕事の成果として、ようやくこの目録が完成したことを本当に嬉しく思うのである。我々はこの文庫の資料を、文学コーナーでの展示や研究者への閲覧等、今後広く利用の場に提供してゆくつもりである。またそれは、御寄贈くださった美好夫人のご意志でもあるからである。この膨大な資料が研究者の手によって、調査研究され、作家田村泰次郎の再評価に繋がり新しい田村泰次郎像が創造されることを願って止まない。

三重県立図書館長 雨森弘行

凡例

特別資料

図書資料

この目録は平成6年3月当館が発行した「田村泰次郎文庫目録」をそのまま掲載したものです。ただし、一部を訂正・補足・細分化しています。
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